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だいじょうぶっきょう/大乗仏教
インドで紀元前後頃に起こった新しい仏教。Ⓢmahāyāna。釈尊は一説によると紀元前三八三年に亡くなったとされ、その教えはやがて各部派において研究された。そうした状況に対し、西暦紀元前後、新たな仏教が唱えられはじめる。その担い手は定かでないが、行を主とする者たちの覚り体験を中核に、伝統仏教に批判的な意識を持つ者たちや仏教文学運動に携わる者たちが参加して、在家信者の可能性を肯定的に見た新仏教運動が形成されたのであろう。最初に『般若経』(八千頌般若)が編纂され、さらに『法華経』『華厳経』『無量寿経』などが編纂されて、経典により大乗の新たな教えが宣布され、後にそれらの経典に込められた思想が整理・体系化され、学派が形成されていった。インドの中観派・瑜伽行派(唯識学派)、中国の天台宗・華厳宗・禅宗・浄土教、日本の浄土宗・浄土真宗・日蓮宗等、いずれも大乗仏教である。大乗とは、他者の救済をめざして自ら仏となることをめざす「偉大な教え」という意味であり、大乗仏教徒らは、それまでの仏教は自らの解脱しか求めない「劣った教え」であるとして小乗と呼んだ。教理的には、小乗仏教は我執を断じて涅槃に入ることのみを目的とするが、大乗仏教は我執と法執の双方を断じて、菩提(智慧)と無住処涅槃とを実現して、もっぱら他者の救済活動にはたらくことをめざす、という違いがある。このように大乗仏教では誰でも自利・利他円満の仏になることをめざすのであり、この仏になる修行をしようと菩提心を発した者を菩薩と呼ぶ。法執をも断じることが目的となるため、一切法空の教えが強調されるが、それは縁起や唯識(唯心)などによって説明された。また、覚りの智慧による、真如や勝義諦といった言語・分別を離れた真理の直覚が指摘され、さらにその智慧の要因として仏性、如来蔵ないし本覚なども説かれた。修行の徳目としては、六波羅蜜や四摂法、四無量心などがあり、そこに利他行の強調を見ることができる。なお、すでに仏となった者の大悲にすがる他力の仏教も、独自に展開され大乗仏教の大きな柱となった。
【参考】『シリーズ大乗仏教』全一〇巻(春秋社、二〇一一~二〇一四)
【参照項目】➡インド仏教、チベット仏教、北伝仏教、浄土教、小乗仏教
【執筆者:竹村牧男】