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「願生偈」とは、天親菩薩ご自身が浄土経典によって浄土を願生する旨を述べた『浄土論』の冒頭の偈頌である。偈頌は五字一句、四句一行で全部で24行になっている。国土十七種、仏八種、菩薩四種の荘厳を説くので三厳二十九種といいならわしている。 偈頌とは、広博な仏教の意を総摂して短い偈のなかにおさめて記憶し忘れないように保つためのものでもある。『浄土論』には、この偈頌の解説(長行)がある。
曇鸞大師の『浄土論註』(『論註』)は、この『浄土論』の偈頌と長行部分の注釈書であり上巻は偈頌について、下巻は長行部分の解説になっている。この偈頌と『論註』の解説の対応を判りやすく把握できるように「願生偈」の偈頌の文から、それに対応する『論註』の、それれぞれの釈へリンクしてみた。『論註』は『浄土論』の偈頌と長行をすべて引用しているので、『浄土論註』を読めば『浄土論』を読んだことになる。ただし曇鸞大師は、天親菩薩の瑜伽唯識の思想の流れを、龍樹菩薩の空観の流れを汲む四論の立場で解釈されているし、当時のシナ思想の『荘子』などの東アジア文化圏の自然の思想も混在しているので難解かも知れない。
なお、『論註』の上巻は、「仏本(もと)なんがゆゑぞこの荘厳を起したまへる」と、仏が何故にこの浄土の荘厳を起こさねばならなかったかという因の所以を尋ねる形式になっており、下巻は因である本願によって成就せられた浄土を「これいかんが不思議なる」という浄土の果徳そのものの不可思議性を顕わしておられる。御開山は具象的な浄土の荘厳をほとんど引文されておられないのだが、法然聖人が浄土門の所依は「三経一論」として浄土三部経と『浄土論』を挙げられる意を、曇鸞大師の「三厳二十九種」を説く『論註』によって、浄土の性起を考察されたのであろう。〔しかるに『経』(大経・下)に「聞」といふは、衆生、仏願の生起本末を聞きて疑心あることなし、これを聞といふなり。「信心」といふは、すなはち本願力回向の信心なり〕であった。
- 願生偈から論註の解説へのリンク
- 帰敬偈
- 世尊我一心 帰命尽十方
- 無礙光如来 願生安楽国。 上 下
- 世尊、われ一心に尽十方無礙光如来に
- 帰命したてまつりて、安楽国に生ぜんと願ず。
- 造論の趣旨
- 我依修多羅 真実功徳相
- 説願偈総持 与仏教相応。 上
- われ修多羅の真実功徳相によりて、
- 願偈を説きて総持し、仏教と相応せん。
- 仏国土の功徳荘厳
- 観彼世界相 上 下
- かの世界の相を観ずるに、
①清浄功徳
- 勝過三界道。
- 三界の道に勝過せり。
②量功徳
- 究竟如虚空 広大無辺際。 上 下
- 究竟して虚空のごとく、広大にして辺際なし。
③性功徳
- 正道大慈悲 出世善根生。 上 下
- 正道の大慈悲、出世の善根より生ず。
④形相功徳
- 浄光明満足 如鏡日月輪。 上 下
- 浄光明の満足せること、鏡と日月輪とのごとし。
⑤種々事功徳
- 備諸珍宝性 具足妙荘厳。 上 下
- もろもろの珍宝の性を備へて、妙荘厳を具足せり。
⑥妙色功徳
- 無垢光炎熾 明浄曜世間。 上 下
- 無垢の光炎熾りにして、明浄にして世間を曜かす。
⑦触功徳
- 宝性功徳草 柔軟左右旋。
- 触者生勝楽 過迦栴隣陀。 上 下
- 宝性功徳の草、柔軟にして左右に旋れり。
- 触るるもの勝楽を生ずること、迦旃隣陀に過ぎたり。
⑧三種功徳
水功徳
- 宝華千万種 弥覆池流泉。
- 微風動華葉 交錯光乱転。 上 下
- 宝華千万種にして、池・流・泉に弥覆せり。
- 微風華葉を動かすに、交錯して光乱転す。
地功徳
- 宮殿諸楼閣 観十方無礙。
- 雑樹異光色 宝蘭遍囲遶。 上 下
- 宮殿・もろもろの楼閣にして、十方を観ること無礙なり。
- 雑樹に異の光色あり、宝欄あまねく囲繞せり。
虚空功徳
- 無量宝交絡 羅網遍虚空。
- 種種鈴発響 宣吐妙法音。 上 下
- 無量の宝交絡して、羅網虚空にあまねし。
- 種々の鈴響きを発して、妙法の音を宣べ吐く。
⑨雨功徳
- 雨華衣荘厳 無量香普薫。 上 下
- 華と衣とを雨らして荘厳し、無量の香あまねく薫ず。
⑩光明功徳
- 仏恵明浄日 除世痴闇冥。 上 下
- 仏慧明浄なること日のごとく、世の痴闇冥を除く。
⑪妙声功徳
- 梵声悟深遠 微妙聞十方。 上 下
- 梵声悟らしむること深遠にして微妙なり。十方に聞ゆ。
⑫主功徳
- 正覚阿弥陀 法王善住持。 上 下
- 正覚の阿弥陀法王、よく住持したまへり。
⑬眷属功徳
- 如来浄華衆 正覚華化生。 上 下
- 如来浄華の衆は、正覚の華より化生す。
⑭受用功徳
- 愛楽仏法味 禅三昧為食。 上 下
- 仏法の味はひを愛楽し、禅三昧を食となす。
⑮無諸難功徳
- 永離身心悩 受楽常無間。 上 下
- 永く身心の悩みを離れ、楽しみを受くることつねにして間なし。
⑯大義門功徳
- 大乗善根界 等無譏嫌名。
- 女人及根欠 二乗種不生。 上 下
- 大乗善根の界は、等しくして譏嫌の名なし。
- 女人および根欠、二乗の種生ぜず。
⑰一切所求満足功徳
- 衆生所願楽 一切能満足。 上 下
- 衆生の願楽するところ、一切よく満足す。
- 故我願生彼 阿弥陀仏国。 上 下
- ゆゑにわれかの阿弥陀仏国に生ぜんと願ず。
- 仏の功徳荘厳
①座功徳
- 無量大宝王 微妙浄華台。 上 下
- 無量大宝王の微妙の浄華台あり。
②身業功徳
- 相好光一尋 色像超群生。 上 下
- 相好の光一尋にして、色像群生に超えたまへり。
③口業功徳
- 如来微妙声 梵嚮聞十方。 上 下
- 如来の微妙の声、梵響十方に聞ゆ。
④心業功徳
- 同地水火風 虚空無分別。 上 下
- 地・水・火・風・虚空に同じて分別なし。
⑤大衆功徳
- 天人不動衆 清浄智海生。 上 下
- 天・人不動の衆、清浄の智海より生ず。
⑥上首功徳
- 如須弥山王 勝妙無過者。 上 下
- 〔如来は〕須弥山王のごとく、勝妙にして過ぎたるものなし。
⑦主功徳
- 天人丈夫衆 恭敬遶瞻仰。 上 下
- 天・人・丈夫の衆、恭敬して繞りて瞻仰したてまつる。
⑧不虚作住持功徳
- 観仏本願力 遇無空過者。
- 能令速満足 功徳大宝海。 上 下
- 仏の本願力を観ずるに、遇ひて空しく過ぐるものなし。
- よくすみやかに功徳の大宝海を満足せしむ。
- 浄土の菩薩の功徳
①菩薩住持功徳
- 安楽国清浄 常転無垢輪。
- 化仏菩薩日 如須弥住持。 上 下
- 安楽国は清浄にして、つねに無垢の輪を転ず。
- 化仏・菩薩の日、須弥の住持するがごとし。
②一念遍至功徳
- 無垢荘厳光 一念及一時
- 普照諸仏会 利益諸群生。 上 下
- 無垢荘厳の光、一念および一時に、
- あまねく諸仏の会を照らし、もろもろの群生を利益す。
③無相供養功徳
- 雨天楽華衣 妙香等供養
- 讃諸仏功徳 無有分別心。 上 下
- 天の楽と華と衣と妙香等とを雨らして供養し、
- 諸仏の功徳を讃ずるに、分別の心あることなし。
④示法如仏功徳
- 何等世界無 仏法功徳宝
- 我願皆往生 示仏法如仏。 上 下
- なんらの世界なりとも、仏法功徳の宝なからんには、
- われ願はくはみな往生して、仏法を示すこと仏のごとくせん。
- 回向偈
- 我作論説偈 願見弥陀仏
- 普共諸衆生 往生安楽国。 上 下
- われ論を作り偈を説く。願はくは弥陀仏を見たてまつり、
- あまねくもろもろの衆生とともに、安楽国に往生せん。
なんまんだぶ なんまんだぶ なんまんだぶ 称名相続……