後鳥羽天皇御作無常講式
出典: 浄土真宗聖典『ウィキアーカイブ(WikiArc)』
後鳥羽天皇御作無常講式
第二段
擧世如浮蝣。于朝死于夕死別者幾許哉。
- 世こぞって蜉蝣の如し。朝に死し、夕べに死して別れるものの幾許ぞや。
或昨日已埋*(木+禁)涙於墓下之者。
- 或いは、昨日已に埋みて、墓の下に涙を拭う者あり、
或今夜欲送泣別棺前之人。凡無墓者人始中終、如幻者一朝過程也。
- 或いは今夜に送らんと欲して、棺の前に別れを泣く人もあり。およそはかなきものは人の始中終、幻の如くなる一朝の過ぐる程なり。
三界無常也。自古未聞有萬歳人身。一生易過。在今誰保百年形體。
- 三界無常なり。
古 よりいまだ萬歳の人身あることいふことを聞かず、 一生過ぎやすし。今に在て誰か百年の形體を保たん。
實我前人前。不知今日不知明日。後先人繁本滴末露。
實 に、我はさき人やさき、今日も知らず明日とも知らず。おくれ先だつ人、本の滴、末の露よりも繁し。
指厚野爲獨逝地築墳墓、爲永栖家。燒爲灰埋爲土。人成之終之資也。
- 厚野を指して獨り逝地に墳墓を築き、永く栖家となす。燒けば灰となり埋めて土となる。人の成りゆく終りの
資 なり。
嗚呼。撫雲鬢戲花間朝。百媚雖難別、先露命、臥蓬下。夕九相皆可捨爛一兩日過者悉傍眼。
- ああ、雲鬢を撫でて花の間に
戲 ふるは、朝 に百媚と別れ難しといえども、露の命を先立ちて蓬の下に臥す。夕 に九相みな捨つべし、爛れて一兩日を過ぐる者悉く眼を傍 む。
臭三五里行人皆塞鼻。便利二道中白蠕蠢出。手足四支上青蠅飛集。
- 臭くして三五里を行く人、みな鼻を塞ぐ。便利二道の中より白き
蠕 蠢き出で、手足四支の上に青蠅飛び集まる。
虎狼野干馳四方、置十二節於所々。鵄梟鵰鷲啄五藏、投五尺腸於色々。肉落皮剥但生髑髏、日曝雨洗、終朽成土。雲鬢何収。
- 虎狼・野干は四方に馳せて、十二節を所々に置きて鵄・梟・鵰・鷲は五藏を
啄 ひて、五尺の腸 を色々に投ぐ。肉は落ち皮は剥げ、ただ生 しき髑髏、日に曝し雨に洗はる。終に朽ちて土と成んぬ、雲鬢何 にか収まる。
華貌何壞。眼秋草生。首春苔繁。白樂天云、「故墓何世人。不知姓與名。和爲道頭土。年々春草生云云。」
- 華の
貌 、何 か壞るる。眼には秋草の生 ひ、首には春苔の繁し。白樂天の云く、「故墓、何れの世の人ぞ、姓と名を知らず、和して道の頭 の土となして、年々に春の草生ふと」云云。
西施顔色今何在。春風百草頭云云。
- 西施の顔色、今や
何 くに在る。春の風、百草の頭 に有るべしと、云云。
再生汝今過壯位。死衰將近閻魔王。欲往先路、無資糧。求住中間、無所止。
- 再び生れて、汝いま
壯 なる位を過ぎたり。死し衰ろえて將に閻魔王に近ずかんと。先路に往かんと欲するに資糧なく、中間に住 むを求むるに所止なし。
一切有爲法如夢幻泡影。如露亦如電。應作如是觀。
- 一切の有爲の法は
夢幻 の泡の影の如し。露の如く電 の如し、かくの如しの觀をなすべし。
- 南無阿彌陀佛
「後鳥羽天皇御作無常講式」第二段。