牛盗人・牛を盗みたる人
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雑宝蔵経巻第二
元魏 西域三蔵 吉迦夜共曇曜訳
(一九)
- 離越被謗縁 [1]
- 離越(りおつ)の謗らるるの縁。
昔罽賓国。有離越阿羅漢。山中坐禅。
- 昔、罽賓国(けいひんーこく)に離越という阿羅漢有りて山中に坐禅しき。
有一人失牛。追逐蹤跡。径至其所。
- 有る一人 牛を失ひ、蹤跡を追逐して径(こみち)、其の所に至る。
爾時離越煮草染衣。衣自然変作牛皮。染汁変成為血。所煮染草変成牛肉。所持鉢盂変成牛頭。
- その時に離越 草を煮て衣を染む。衣自然に変じて牛皮と作り、染汁変成して血と為り、煮る所の染草変じて牛肉と成り、所持の鉢盂 変じて牛頭と成れり。
牛主見已。即捉収縛。将詣於王。王即付獄中。経十二年。恒為獄監。飼馬除糞。
- 牛主見已(おわ)りて即ち捉(とら)へ収縛して将(ひき)いて王に詣(いた)る。王即ち獄中に付して十二年を経(ふ)、恒に獄監と為し、馬を飼ひ糞を除けり。
離越弟子。得羅漢者。有五百人。観覓其師。不知所在。業縁欲尽。有一弟子。見師乃在罽賓獄中。
- 離越の弟子、羅漢を得たる者、五百人有り。其の師を観覓せんとして所在を知らず。業縁尽きんと欲するとき一弟子有り、師はすなわち罽賓の獄中に在らるるを見る。
即来告王。我師離越。在王獄中。願為断理。
- 即ち来り王に告ぐ。我師離越は王の獄中に在(いま)せり。願わくは断理を為せと。
王即遣人。就獄検校。王人至獄。唯見有人。威色憔悴。鬚髪極長。而為獄監。飼馬除糞。
- 王 即ち人を遣し、獄に就いて検校せしむ。王人獄に至しも唯だ人有りて威色憔悴、鬚髪極めて長くして獄監と為り、馬を飼ひ糞を除くを見るのみ。
還白王言。獄中都無沙門道士。唯有獄卒比丘。
- 還りて王に白して言く、獄中都(すべて)沙門道士無し、唯だ獄卒の比丘有りしのみと。
弟子。復白王言。願但設教。諸有比丘。悉聴出獄。
- 弟子、復(また)王に白して言く、願くは但(ただ)教を設けよ。諸の有らゆる比丘は悉く出獄を聴(ゆる)せと。
王即宣令諸有道人。悉皆出獄。
- 王、即ち諸(もろもろ)の有らゆる道人に宣令して、悉く皆 獄を出でしむ。
尊者離越。於其獄中。鬚髪自落。袈裟著身。踊在虚空。作十八変。
- 尊者離越は、其の獄中に於いて、鬚髪自(おのずか)ら落ち、袈裟身に著き、踊りて虚空に在り。十八変を作せり。
王見是事。歎未曽有。五体投地。白尊者言。願受我懺悔 即時来下。受王懺悔。
- 王 是の事を見て、未曽有なりと歎じ五体を地に投じ、尊者に白して言く、願わくは我が懺悔を受けよと。
即時来下。受王懺悔。
- 即時に来り下りて、王の懺悔を受く。
王即問言。以何業縁。在於獄中。受苦経年。
- 王、即ち問いて言く、何の業縁を以て獄中に在り、苦を受け年を経(へ)るやと。
尊者答言。我於往昔。亦曽失牛。随逐蹤跡。経一山中。見辟支仏独処坐禅。即便誣謗。至一日一夜。
- 尊者答へて言く、我、往昔に於ても亦(また)曽(かつ)て牛を失ひ、蹤跡を随逐して一山中を経しに、辟支仏の独処坐禅せるを見、即便(すなわ)ち誣(し)ひ謗りて一日一夜に至れり。
以是因縁。堕落三塗。苦毒無量。余殃不尽。至得羅漢。猶被誹謗
- 是の因縁を以て三塗に堕落し、苦毒無量なり。余殃尽きず羅漢を得るに至るも猶(なお)誹謗せらるるなり。
- 業果を業滅する為にあえて苦難に耐えるということ。