浄土論 (七祖)
出典: 浄土真宗聖典『ウィキアーカイブ(WikiArc)』
天親菩薩が無量寿経によってみずからの願生の意を述べたもので、つぶさには『無量寿経優婆提舎願生偈』といい、略して『浄土論』『往生論』『論』と称される。
本文は、24行96句の偈頌(詩句)と、三千字たらずの長行(散文)とからなっている。その偈頌の部分は、最初に帰敬頌がおかれ、天親菩薩自身の阿弥陀仏への帰依と願生浄土の思念とが表白される。ついで、造論の意趣が示され、つづけて、安楽国土と阿弥陀仏およびその聖衆の三種の荘厳相が二十九種にわたって讃詠されている。末尾には、偈頌の結びとして、あまねく衆生とともに往生することを願う回向の意が示されている。つぎの長行は前の偈頌を解釈した部分で、そこでは往生浄土の行としての五念門(礼拝・讃嘆・作願・観察・回向)が開示され、その五念門の果徳としての五果門(近門・大会衆門・宅門・屋門・園林遊戯地門)が説かれている。
- 浄土論
- 無量寿経優婆提舎願生偈
婆藪槃頭菩薩造 後魏菩提留支訳
目 次
総説分
【1】
- 世尊、われ一心に尽十方無礙光如来に帰命したてまつりて、安楽国に生ぜんと願ず。
【3】
- かの世界の相を観ずるに、三界の道に勝過せり。
- 究竟して虚空のごとく、広大にして辺際なし。
- 正道の大慈悲、出世の善根より生ず。
- 浄光明の満足せること、鏡と日月輪とのごとし。
- もろもろの珍宝の性を備へて、妙荘厳を具足せり。
- 無垢の光炎熾りにして、明浄にして世間を曜かす。
- 宝性功徳の草、柔軟にして左右に旋れり。
- 触るるもの勝楽を生ずること、迦旃隣陀に過ぎたり。
- 宝華千万種にして、池・流・泉に弥覆せり。
- 微風華葉を動かすに、交錯して光乱転す。
- 宮殿・もろもろの楼閣にして、十方を観ること無礙なり。
- 雑樹に異の光色あり、宝欄あまねく囲繞せり。
- 無量の宝交絡して、羅網虚空にあまねし。
- 種々の鈴響きを発して、妙法の音を宣べ吐く。
- 華と衣とを雨らして荘厳し、無量の香あまねく薫ず。
- 仏慧明浄なること日のごとく、世の痴闇冥を除く。
- 梵声悟らしむること深遠にして微妙なり。十方に聞ゆ。
- 正覚の阿弥陀法王、よく住持したまへり。
- 如来浄華の衆は、正覚の華より化生す。
- 仏法の味はひを愛楽し、禅三昧を食となす。
- 永く身心の悩みを離れ、楽しみを受くることつねにして間なし。
- 大乗善根の界は、等しくして譏嫌の名なし。
【4】
- 無量大宝王の微妙の浄華台あり。
- 相好の光一尋にして、色像群生に超えたまへり。
- 如来の微妙の声、梵響十方に聞ゆ。
- 地・水・火・風・虚空に同じて分別なし。
- 天・人不動の衆、清浄の智海より生ず。
- 〔如来は〕須弥山王のごとく、勝妙にして過ぎたるものなし。
- 天・人・丈夫の衆、恭敬して繞りて瞻仰したてまつる。
- 仏の本願力を観ずるに、遇ひて空しく過ぐるものなし。
- よくすみやかに功徳の大宝海を満足せしむ。
【5】
- あまねく諸仏の会を照らし、もろもろの群生を利益す。
- 天の楽と華と衣と妙香等とを雨らして供養し、
- 諸仏の功徳を讃ずるに、分別の心あることなし。
- なんらの世界なりとも、仏法功徳の宝なからんには、
- われ願はくはみな往生して、仏法を示すこと仏のごとくせん。
【6】
- われ論を作り偈を説く。願はくは弥陀仏を見たてまつり、
- あまねくもろもろの衆生とともに、安楽国に往生せん。
【7】
無量寿修多羅の章句、われ偈頌をもつて総じて説きをはりぬ。
解義分
願偈大意
起観生信
【8】
論じていはく、この願偈はなんの義をか明かす。かの安楽世界を観じて阿弥陀仏を見たてまつることを示現す。かの国に生ぜんと願ずるがゆゑなり。
観察体相
【9】
いかんが観じ、いかんが信心を生ずる。もし善男子・善女人、五念門を修して行成就しぬれば、畢竟じて安楽国土に生じて、かの阿弥陀仏を見たてまつることを得。なんらか五念門。
一には礼拝門、
二には讃歎門、
三には作願門、
四には観察門、
五には回向門なり。
いかんが礼拝する。身業をもつて阿弥陀如来・応・正遍知を礼拝したてまつる。かの国に生ずる意をなすがゆゑなり。
いかんが讃歎する。口業をもつて讃歎したてまつる。かの如来の名を称するに、かの如来の光明智相のごとく、かの名義のごとく、如実に修行して相応せんと欲するがゆゑなり。
いかんが作願する。心につねに願を作し、一心にもつぱら畢竟じて安楽国土に往生せんと念ず。如実に奢摩他を修行せんと欲するがゆゑなり。
いかんが観察する。智慧をもつて観察し、正念にかしこを観ず。如実に毘婆舎那を修行せんと欲するがゆゑなり。かの観察に三種あり。なんらか三種。
一にはかの仏国土の荘厳功徳を観察す。
二には阿弥陀仏の荘厳功徳を観察す。
三にはかの諸菩薩の功徳荘厳を観察す。
いかんが回向する。一切苦悩の衆生を捨てずして、心につねに願を作し、回向を首となす。大悲心を成就することを 得んとするがゆゑなり。
【10】
いかんがかの仏国土の荘厳功徳を観察する。かの仏国土の荘厳功徳は不可思議力を成就せるがゆゑなり。かの摩尼如意宝の性のごときに相似相対の法なるがゆゑなり。かの仏国土の荘厳功徳成就を観察すとは十七種あり、知るべし。なんらか十七。
一には荘厳清浄功徳成就、
二には荘厳無量功徳成就、
三には荘厳性功徳成就、
四には荘厳形相功徳成就、
五には荘厳種々事功徳成就、
六には荘厳妙色功徳成就、
七には荘厳触功徳成就、
八には荘厳三種功徳成就、
九には荘厳雨功徳成就、
十には荘厳光明功徳成就、
十一には荘厳妙声功徳成就、
十二には荘厳主功徳成就、
十三には荘厳眷属功徳成就、
十四には荘厳受用功徳成就、
十五には荘厳無諸難功徳成就、
十六には荘厳大義門功徳成就、
十七には荘厳一切所求満足功徳成就なり。
荘厳清浄功徳成就とは、偈に「観彼世界相 勝過三界道」といへるがゆゑなり。
荘厳無量功徳成就とは、偈に「究竟如虚空 広大無辺際」といへるがゆゑなり。
荘厳性功徳成就とは、偈に「正道大慈悲 出世善根生」といへるがゆゑなり。
荘厳形相功徳成就とは、偈に「浄光明満足 如鏡日月輪」といへるがゆゑなり。
荘厳種々事功徳成就とは、偈に「備諸珍宝性 具足妙荘厳」といへるがゆゑなり。
荘厳妙色功徳成就とは、偈に「無垢光炎熾 明浄曜世間」といへるがゆゑなり。
荘厳触功徳成就とは、偈に「宝性功徳草 柔軟左右旋 触者生勝楽 過迦旃隣陀」といへるがゆゑなり。
荘厳三種功徳成就とは、三種の事あり、知るべし。なんらか三種。
- 一には水、
- 二には地、
- 三には虚空なり。
- 荘厳水功徳成就とは、偈に「宝華千万種 弥覆池流泉 微風動華葉 交錯光乱転」といへるがゆゑなり。
- 荘厳地功徳成就とは、偈に「宮殿諸楼閣 観十方無礙 雑樹異光色 宝欄遍囲繞」といへるがゆゑなり。
- 荘厳虚空功徳成就とは、偈に「無量宝交絡 羅網遍虚空 種種鈴発響 宣吐妙法音」といへるがゆゑなり。
荘厳雨功徳成就とは、偈に「雨華衣荘厳 無量香普薫」といへるがゆゑなり。
荘厳光明功徳成就とは、偈に「仏慧明浄日 除世痴闇冥」といへるがゆゑなり。
荘厳妙声功徳成就とは、偈に「梵声悟深遠 微妙聞十方」といへるがゆゑなり。
荘厳主功徳成就とは、偈に「正覚阿弥陀 法王善住持」といへるがゆゑなり。
荘厳眷属功徳成就とは、偈に「如来浄華衆 正覚華化生」といへるがゆゑなり。
荘厳受用功徳成就とは、偈に「愛楽仏法味 禅三昧為食」といへるがゆゑなり。
荘厳無諸難功徳成就とは、偈に「永離身心悩 受楽常無間」といへるがゆゑなり。
荘厳大義門功徳成就とは、偈に「大乗善根界 等無譏嫌名 女人及根欠 二乗種不生」といへるがゆゑなり。
浄土の果報は二種の譏嫌の過を離れたり、知るべし。一には体、二には名なり。体に三種あり。
- 一には二乗人、
- 二には女人、
- 三には諸根不具人なり。
この三の過なし。ゆゑに体の譏嫌を離ると名づく。名にまた三種あり。ただ三の体なきのみにあらず、乃至二乗と女人と諸根不具の三種の名を聞かず。ゆゑに名の譏嫌を離ると名づく。「等」とは平等一相のゆゑなり。
荘厳一切所求満足功徳成就とは、偈に「衆生所願楽 一切能満足」といへるがゆゑなり。
【11】
略してかの阿弥陀仏国土の十七種の荘厳成就を説く。如来の自身利益大功徳力成就と、利益他功徳成就とを示現せんがゆゑなり。
【12】
かの無量寿仏国土の荘厳は第一義諦妙境界相なり。十六句および一句次第して説けり、知るべし。
【13】
いかんが仏の荘厳功徳成就を観ずる。
仏の荘厳功徳成就を観ずとは、八種の相あり、知るべし。なんらか八種。
- 一には荘厳座功徳成就、
- 二には荘厳身業功徳成就、
- 三には荘厳口業功徳成就、
- 四には荘厳心業功徳成就、
- 五には荘厳大衆功徳成就、
- 六には荘厳上首功徳成就、
- 七には荘厳主功徳成就、
- 八には荘厳不虚作住持功徳成就なり。
なんとなれば荘厳座功徳成就とは、偈に「無量大宝王 微妙浄華台」といへるがゆゑなり。
なんとなれば荘厳身業功徳成就とは、偈に「相好光一尋 色像超群生」といへるがゆゑなり。
なんとなれば荘厳口業功徳成就とは、偈に「如来微妙声 梵響聞十方」といへるがゆゑなり。
なんとなれば荘厳心業功徳成就とは、偈に「同地水火風 虚空無分別」といへるがゆゑなり。「無分別」とは分別の心なきがゆゑなり。
なんとなれば荘厳大衆功徳成就とは、偈に「天人不動衆 清浄智海生」といへるがゆゑなり。
なんとなれば荘厳上首功徳成就とは、偈に「如須弥山王 勝妙無過者」といへるがゆゑなり。
なんとなれば荘厳主功徳成就とは、偈に「天人丈夫衆 恭敬繞瞻仰」といへるがゆゑなり。
なんとなれば荘厳不虚作住持功徳成就とは、偈に「観仏本願力 遇無空過者 能令速満足 功徳大宝海」といへるがゆゑなり。
すなはちかの仏を見たてまつれば、未証浄心の菩薩畢竟じて平等法身を証することを得て、浄心の菩薩と上地のもろもろの菩薩と畢竟じて同じく寂滅平等を得るがゆゑなり。
【14】
略して八句を説きて、如来の自利利他の功徳荘厳、次第に成就したまへることを示現す、知るべし。
【15】
いかんが菩薩の荘厳功徳成就を観察する。菩薩の荘厳功徳成就を観察すとは、かの菩薩を観ずるに四種の正修行功徳成就あり、知るべし。何者をか四となす。
一には一仏土において身動揺せずして十方に遍して、種々に応化し
て如実に修行し、つねに仏事をなす。偈に「安楽国清浄 常転無垢輪 化仏菩薩日 如須弥住持」といへるがゆゑなり。もろもろの衆生の淤泥華を開くがゆゑなり。
二にはかの応化身、一切の時に前ならず後ならず、一心一念に大光明を放ちて、ことごとくよくあまねく十方世界に至りて衆生を教化す。種々に方便し修行し、なすところ一切衆生の苦を滅除するがゆゑなり。偈に「無垢荘厳光 一念及一時 普照諸仏会 利益諸群生」といへるがゆゑなり。
三にはかれ一切世界において余すことなく、諸仏の会の大衆を照らして余すことなく、広大無量に諸仏如来の功徳を供養し恭敬し讃歎す。偈に「雨天楽華衣 妙香等供養 讃諸仏功徳 無有分別心」といへるがゆゑなり。
四にはかれ十方一切世界の三宝なき処において、仏法僧宝の功徳の大海を住持し荘厳して、あまねく示して如実の修行を解らしむ。偈に「何等世界無 仏法功徳宝 我願皆往生 示仏法如仏」といへるがゆゑなり。
浄入願心
【16】
また向に荘厳仏土功徳成就と荘厳仏功徳成就と荘厳菩薩功徳成就とを観察することを説けり。この三種の成就は、願心をもつて荘厳せり、知るべし。
【17】
略して一法句に入ることを説くがゆゑなり。一法句といふはいはく、清浄句なり。清浄句といふはいはく、真実智慧無為法身なるがゆゑなり。
この清浄に二種あり、知るべし。なんらか二種。
- 一には器世間清浄、
- 二には衆生世間清浄なり。
器世間清浄とは、向に説くがごとき十七種の荘厳仏土功徳成就なり。これを器世間清浄と名づく。衆生世間清浄とは、向に説くがごとき八種の荘厳仏功徳成就と四種の荘厳菩薩功徳成就となり。これを衆生世間清浄と名づく。かくのごとく一法句に二種の清浄の義を摂す、知るべし。
善巧摂化
【18】
かくのごとく菩薩は、奢摩他と毘婆舎那を広略に修行して柔軟心を成就し、如実に広略の諸法を知る。かくのごとくして巧方便回向を成就す。
何者か菩薩の巧方便回向。菩薩の巧方便回向とは、いはく、説ける礼拝等の五種の修行をもつて集むるところの一切の功徳善根は、自身住持の楽を求めず、一切衆生の苦を抜かんと欲するがゆゑに、一切衆生を摂取してともに同じくかの安楽仏国に生ぜんと作願するなり。これを菩薩の巧方便回向成就と名づく。
離菩提障
【19】
菩薩かくのごとくよく回向を知りて成就すれば、すなはちよく三種の菩提門相違の法を遠離す。なんらか三種。
一には智慧門によりて自楽を求めず。我心の自身に貪着することを遠離するがゆゑなり。
二には慈悲門によりて一切衆生の苦を抜く。衆生を安んずることなき心を遠離するがゆゑなり。
三には方便門によりて一切衆生を憐愍する心なり。自身を供養し恭敬する心を遠離するがゆゑなり。これを三種の菩提門相違の法を遠離すと名づく。
順菩提門
【20】
菩薩はかくのごとき三種の菩提門相違の法を遠離して、三種の菩提門に随順する法の満足を得るがゆゑなり。なんらか三種。
一には無染清浄心なり。自身のために諸楽を求めざるをもつてのゆゑなり。
二には安清浄心なり。一切衆生の苦を抜くをもつてのゆゑなり。
三には楽清浄心なり。一切衆生をして大菩提を得しむるをもつてのゆゑなり。衆生を摂取してかの国土に生ぜしむるをもつてのゆゑなり。
これを三種の菩提門に随順する法の満足と名づく、知るべし。
【21】
向に説く智慧と慈悲と方便との三種の門は般若を摂取し、般若は方便を摂取す、知るべし。向に我心を遠離して自身に貪着せざると、衆生を安んずることなき心を遠離すると、自身を供養し恭敬する心を遠離するとを説けり。この三種の法は菩提を障ふる心を遠離す、知るべし。向に無染清浄心、安清浄心、楽清浄心を説けり。この三種の心は、一処に略して妙楽勝真心を成就す、知るべし。
願事成就
利行満足
【22】
かくのごとく菩薩は智慧心・方便心・無障心・勝真心をもつてよく清浄の仏国土に生ず、知るべし。これを菩薩摩訶薩、五種の法門に随順し、所作意に随ひて自在に成就すと名づく。向の所説のごとき身業・口業・意業・智業・方便智業は、法門に随順するがゆゑなり。
【23】
また五種の門ありて漸次に五種の功徳を成就す、知るべし。何者か五門。
- 一には近門、
- 二には大会衆門、
- 三には宅門、
- 四には屋門、
- 五には園林遊戯地門なり。
この五種の門は、初めの四種の門は入の功徳を成就し、第五門は出の功徳を成就す。
入第一門とは、阿弥陀仏を礼拝し、かの国に生ぜんとなすをもつてのゆゑに、安楽世界に生ずることを得。これを入第一門と名づく。
入第二門とは、阿弥陀仏を讃歎し、名義に随順して如来の名を称し、如来の光明智相によりて修行するをもつてのゆゑに、大会衆の数に入ることを得。これを入第二門と名づく。
入第三門とは、一心専念にかしこに生ぜんと作願し、奢摩他寂静三昧の行を修するをもつてのゆゑに、蓮華蔵世界に入ることを得。これを入第三門と名づく。
入第四門とは、専念にかの妙荘厳を観察し、毘婆舎那を修するをもつてのゆゑに、かの所に到りて種々の法味楽を受用することを得。これを入第四門と名づく。
入の四種の門をもつて自利の行成就す、知るべし。菩薩は出の第五門の回向をもつて利益他の行成就す、知るべし。
菩薩は
【25】
無量寿修多羅優婆提舎願生偈、略して義を解しをはりぬ。
- 無量寿経優婆提舎願生偈
[願主比丘敬覚]
[南無阿弥陀仏 筆者沙門泰兼]
[永享九{丁巳}年七月十八日]